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第5回 2020/5/21

公園とは?

前回はコモンのみどりとしての庭園について述べてきた。長い歴史の中で形成されてきた庭園史は、封建社会の崩壊とともに、公園へと置き換わることになる。公園の広がりは、庭園の歴史のないアメリカにおいて特に顕著にみられ、本講義のベースにあるランドスケープアーキテクチュアの学問もニューヨークセントラルパークに起源がある。日本においても諸外国の影響を受け、庭園や寺社境内地、景勝地は公園へと転換されるとともに、日比谷公園をはじめとする市民のための公園が建設されてきた。

 日本における公園の登場は、明治6(1873)年1月15日に発布された太政官布達第16号に遡る。以下がその文面である。

正院達第拾六号府県ヘ
三府ヲ始、人民輻輳ノ地ニシテ、古来ノ勝区名人ノ致跡地等是迄群集遊観ノ場所(東京ニ於テハ金竜山浅草寺、東叡山寛永寺境内ノ類、京都ニ於テハ八坂神社境内嵐山ノ類、然テ此等境内除地或ハ公有地ノ類)従前高外除地ニ属セル分ハ永ク万人偕楽ノ地トシ、公園ト可被相定ニ付、府県ニ於テ右地所ヲ撰シ其景況巨細取調、図面相添大蔵省ヘ可伺出事
明治六年一月十五日   太 政 官

 ここでは、景勝地や名所、史跡など多くの人が鑑賞したり遊んだ場所を公園とすることがよいとしている。公園とは「万人偕楽ノ地」と示している。その後、都市公園法が昭和31年4月20日に制定されるまで、この布達のもとに公園がつくられることになる。名古屋市では、鶴舞(つるま)公園が第一号である。明治43年(1910)に開催された第10回関西府県連合共進会の会場跡地に整備されたものである。この地は、明治38年(1905)から精進川(現在の新堀川)の改修工事による土砂を利用し、当時田園地帯であった旧御器所村が選ばれた。

 それからすでに100年近い年月が経ち、2019年の名古屋市みどり年報によれば、平成 31 年 4 月 1 日現在、都市計画公園・緑地が795 か所(2,799ha) 整備されてきた。そのうち、計画決定されているにもかかわらず、まだ整備できていない公園・緑地が 32 か所、 約 996ha あるといわれている。また一人当たりの公園面積は、7.00平方メートル(平成31年度)であり、将来目標の15平方メートルには到底届かない現状にある。

 その一方で、維持管理費は、平成 10 年度をピークに減少傾向しており、公園 1 ㎡あたりの維持管理費は、ピーク時の616 円から平成 23 年度には 358 円にまでおおよそ半減している。このような状況の中、公園を「経営をしていく」という視点は必要不可欠な時代にきており、2017 年 5 月の都市公園法改正により「公募設置管理制度(以下、「Park-PFI」)」等が創設されるととなった。この制度は、「都市公園において飲食店、売店等の公園施設(公募対象公園施設)の設置又は管理を行う民間 事業者を、公募により選定する手続き」であり、「事業者が設置する施設から得られる収益を公園整備に還元することを条件」になることが特徴である。すでに名古屋でも久屋大通公園(北)が「Park-PFI」事業として進行している。公園への財源が逼迫する中では、こうした制度を広く活用することが望まれる。しかし、久屋大通公園のように民間事業者が収益を見込める公園はごくわずかであり、街区公園とよばれているような小さな公園を含むほとんどの公園では引き続き行政による管理が求められる。

 

愛着を持てる公園づくり

 街区公園の多くは、公園愛護会が組織されたり、アダプト制度とよばれるような制度が利用されており、いずれも市民により維持されている側面が大きい。それだけにいかに地元利用を促し、地元住民による維持管理が自発的に行われることが望ましい。現在流行している新型コロナウィルスは、人との交流は自粛が求められるものの屋外での運動などは状況に応じて許容されており、これまで無意味とも感じた小さな公園もその存在価値を改めて見直されてきているように感じる。いかにこの流れの中で、不要の産物のような小さな公園を捉え直し、生活の一部となるべく公園が考えられるかである。

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Fig.1 HELLO GARDENプロジェクト(公共R不動産ウェブサイトより)

 Fig.1 は千葉大学にほど近いところで行われているHELLO GARDENプロジェクトである。公園ではないものの、空き地を使った地域とをつなぐ自治的な活動が展開する広場がつくられている。ほとんどのものが手作りで作られ、様々なイベントを通して地元自治会との連携を強めている。時間のかかる話ではあるが、こうした積極的に地域に入り込みつなげようとする人がいることが地域にとって非常に大きな力となる。

Fig.3 てんぱくプレーパーク(てんぱくプレーパークウェブサイトより)

 新とよパークやHello Gardenにみる自治組織による場づくりは最近だけの動きではない。公園での自由な遊びが制限されることから、利用者の責任の下で火遊びを含む公園ではなかなかできない遊びができる場所にプレーパークがある。管理者のもと、それぞれのプレーパークごとのルールが決められ運営されている。怪我などのリスクは伴うが遊びの幅を広げることで体験としてその場が記憶され、愛着のわく思い出として残る場になる。

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Fig.2 新とよパーク(豊田市ウェブサイトより)

 Fig.2 は豊田市駅前に竣工した新しい公園である。この公園では、スケボーをはじめ普通の街区公園などでは利用できないバーベーキューなどの利用ができるようになっている。いわゆるこれまで「できない」とされてきた様々なことが「できる」公園になっている。もともと都市公園法では、スケボーやバーベキューを禁止しているわけではない。地域住民から要望や周辺状況を踏まえて各自治体が判断し「禁止看板」を設置するに至っている。ここには建設的な議論が行われた事例はまれであり、ある少数の意見により公園のあり方が決まっていってしまっている。そこで、新とよパークでは、土地を所有する豊田市と連携し利用者や地元商店街、自治会などが運営を行い、周辺地域住民の視点と利用者の視点の双方を踏まえた利用を検討しているところに小規模公園の可能性を垣間見ることができる。

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Fig.4 樹木観察会

 自治組織がどこでもできれば街区公園のあり方も大きく変わるだろう。しかし、すべての公園で同様の仕組みができるまでには時間がかかる上、行政側の負担も大きい。もう少し手軽なことからはじめてみるのはどうだろうか。例えば、公園には様々な樹木が生えるが、これらを知る機会はほとんどない。公園の樹木を知ることが公園へ入る最初のきっかけになるかもしれない。地域を「知る」ことが地域へ「参加」することのきっかけになる。樹木観察会をひらけばそこで知り合う人もいれば、それまで地域とのつながりが薄かった人も新たな交友関係が生まれるであろう。

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Fig.5 樹名板づくり

 さらに少し展開すれば、樹名盤をワークショップでつくるのも1つであろう。樹木の葉っぱでスタンプすれば、既製品の樹名盤とはひと味違った世界でひとつしかない樹名盤になるだろう。葉っぱのない季節でもその樹木を思い出すことができるであろうし、何より自分たちでつくった樹名盤が公園にあるだけで公園づくりに少しばかりでも「参加」した証になる。小さなことであるがそういった取り組みが、未来の公園を考えるきっかけになるのではないかと考える。

 以上のように紹介してきたような住民に愛される公園づくりが必要な一方、公園の主要な構成要素である植栽をどう管理していくかも考えていかねばならない。

利用状況に応じたメリハリある公園管理

 公園といえば、植栽があることがほとんどである。遊具やトイレなどの施設もある程度は日常的な管理は必要であるが、規模が大きくなればなるほど植栽管理の負担は大きい。特に芝生のように常に刈り込みを年に数回以上必要とする植栽は、人気エリアであると同時に手間もかかる。こうした高頻度管理植栽を利用状況に応じて低頻度の管理でも耐えうる植栽へと転換していくが​求められる。

Fig.7 遊具のある広場を囲うように背丈の高い植栽が配置されているアムステルダムの公園

 また、管理を減らすことでで草丈が高くなることで、エリア間をゆるやかに分けることもできるだろう。Fig.7の公園にみるように、子どもが遊ぶ遊具エリアを草丈の高い植栽で囲うことで子どもの不用意な街路への飛び出しを抑制できるだろう。単なる管理費削減のための対策として原っぱを取り入れるのではなく、利用実態に合わせて空間デザインを見直すことで自ずと管理費が削減できる。

 

 以上みてきたように、主体的に使っていく公園(エリア)とある程度自然任せにしていく公園(エリア)とをつくっていくなど、地域の状況に合わせた維持管理計画が重要になると考えられる。

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Fig.6 味の素スタジアム西園の原っぱ

 Fig6.に紹介する味の素スタジアム(東京都調布市)を囲む公園では、芝生ではなく原っぱをつくりだしている。実のところ、背の低いシバ類を中止のする芝生は全国の公園などでみられるが、様々な植栽が混ざる原っぱは全国的にみて減少傾向にある。これは森林化が進んでいることもるのと同時に原っぱに生えるススキなどを茅葺などで利用することが極端に減少し、原っぱがなくなったことも大きい。原っぱは、芝生に比べれば管理回数を減らすことができ、年に1〜2回程度の刈払いを行うだけでも原っぱが維持できる。人の利用が見込めればしっかり刈り込めば、芝生と同様の利用が可能であるし、利用が減ってくれば刈り込み回数を減らして原っぱにすれば、人がこなくなった分いきものの生息地になる。

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