Akihiko Ono Lab.
Nagoya City University
Graduate School of Design and Architecture
名古屋市立大学 芸術工学研究科
大野 暁彦 研究室(ランドスケープデザイン研究室)
第4回 2020/5/14
庭園とは?
前回はコモンのみどりについて、述べてきたがその中でも今回は、庭園に注目する。とはどのような空間なのだろうか。庭園に使われる「園」という漢字も英語で使われるgardenの「gar(古代ヘブライ語のgan)」も『囲まれていること』を意味する。しかし、その一方で、様々な人が訪れ楽しんだほか生活の場でもあり、庭園は茶道をはじめ多くの文化とともにある総合芸術である。その意味では、都市と常に呼応しながら存在している。今回は、庭園について「閉じる」ー「開く」という視点でみていきたい
庭園は、長い歴史の中で形態を大きく変化させてきている。それは単純にいえば、周囲との関係性の作り方が変わってきたともいえる。特にその流れは西欧庭園史において顕著にみられる。ざっくりと話してしまえば、古代ローマに見られる庭園やイスラム式庭園は建築の中庭であったり、周囲の都市や自然とは無関係に秩序ある空間が形成されていることが多い。しかし、その後に出現するイタリア式庭園は斜面に多くが立地し、都市を眺めるという視点が加わるし、フランス式庭園に至れば庭園から伸ばした軸線が都市にまで伸び、庭園が都市を形成するようになる。さらにイギリス式庭園では、周囲の牧歌的自然との一体化を目指したデザインが発明され、風景に溶け込んでしまう。
アジア庭園は、そういった意味では思想世界に影響を受けるところが強く、借景といった一方的な風景の引用は行われた一方で、西欧庭園史にみられるような庭園軸が都市軸にまで影響したり、周囲の自然と一体化させてしまうような空間はみられず、いつまでも何かしらの境界を形成している。一方で、庭園の内部には、海や山、名所など様々な風景が持ち込まれ縮められたり抽象化されたりして庭園内であるにも関わらず、「旅」をしているかのような風景が展開していく。
外の風景を取り込む/借景
庭園内外を関連づける操作のうち、西欧庭園・アジア庭園いずれでもみられるのが庭園外の風景を取り込む、いわゆる借景とよばれる手法である。アジア庭園では積極的に外の風景は、窓や生垣、植栽などで「切り取り」がされて、庭園外の風景が庭園風景の画面構成する重要な要素となっている。
Fig.1 円通寺の借景(比叡山が見える)
Fig.1 は国内の庭園で借景として有名な円通寺庭園である。水平に刈り込まれた生垣が遠くに見える比叡山への風景を縁取っている。京都だけでなく、閉鎖的な印象を露地庭(茶庭)でも借景を取り込んでいる庭園もある(露地庭園(江戸時代):居初氏庭園)。明治期以降の庭園でも借景はよく用いられる手法である(別荘庭園(明治時代):無鄰菴)。遠くの山を見るような庭園は日本だけでなく、韓国の別墅とよばれる隠居後の別荘の庭園でもみられ、同様に庭園を囲うように山を、比較的高く遠くを見渡せるような場所に立地した庭園建築から眺められるようになっている(別墅庭園:瀟灑園)。中国庭園でも、こうした遠くの風景を窓で区切るなどより強く風景を「切り取る」。
Fig.2 フィレンチェまわりに庭園と地形(上の写真はボボリ庭園)
引用元:Clemens Steenbergen著「Architecture and Landscape」
イタリア式庭園は別荘庭園が多いが、その多くはまちを囲う山の斜面に立地することが多い。Fig2.はボボリ庭園含むフィレンチェのまわりの庭園立地を示している。どれも山の斜面に立地し、まちを見下ろせると同時に別荘建築双方をみれるような場所にあることがうかがえる。常に都市や他の別荘との関係性の中で別荘が立地されていることがわかる。
外からインフラを引き込む
庭園の多くには池や川など水を用いることが多い。しかし、その水がいつも得られるわけではない。場合によっては大規模な水道施設を用意しなければならないこともあり、水道施設とともに庭園がつくられた事例が世界各地でみられる。
Fig.4 琵琶湖疏水を引き込んだ庭園群
引用元:尼崎博正(1984)「南禅寺界隈疏水園地群の水系」を
伊藤ら「野生魚類の生息環境としての園池」で加筆した図
日本でも同様に、大規模なインフラを伴う庭園がある。その中でも最も有名と思われるものが、琵琶疏水を引き込んでつくられた庭園群であろう。工業用水などを目的として琵琶湖からひかれた琵琶湖疏水が庭園にひかれるようになり、南禅寺界隈に庭園をつなぐ大規模なネットワークができている。多くは現在も残り水も庭園から庭園へと流れていく。無鄰菴もそのうちの1つである。東京にある大名庭園(江戸時代):浜離宮庭園や中国蘇州庭園などでは、運河や河川から直接出入りができるよう、庭園内部まで堀が入り込んでいる。舟運が当時重要な物流手段であり、専用の船着場機能をもつとともに、客人も船でで出入りしていたようである。
水は庭園にとって欠かせない存在であるだけに、見た目上、塀などで囲われていても外部と接続できるよう様々な工夫がみられる。
外へと伸びる庭園の進化
西欧庭園がどのように外部環境に呼応しながら進化していったか、その形態における過程をみるには、イギリス庭園の形成過程をみるとわかりやすい。先に述べたように西欧の庭園は、比較的整形なイスラム式庭園から斜面などに立地し立面的展開をみせたイタリア式庭園、さらに庭園外の方々にまで軸線(ビスタ)を伸ばした形態をもつフランス式庭園、そして周囲の自然へと溶け込もうとするイギリス式庭園といった流れである。
Fig.3 マルリーの機械
引用元:Patricia Bouchenot-Dechin and Georges Farhat著「Le Notre in perspective」
大規模な運河や噴水を設けたフランス式庭園も例外ではなく、その中でもとりわけ巨大であった、ヴェルサイユ宮殿庭園はセーヌ川にまで水源を求めた。Fig3.はマルリーの機械とよばる揚水装置でセーヌ川に設置されたものである。ここで揚げられた水は、水道橋を通り遠くヴェルサイユまで運ばれた。水を大量得難い地であったヴェルサイユにまで大量の水をひくことができた権力の強さ示したのである。こうした事例は水の得難い地に立地するイスラム庭園でもみられる。
Fig.5 1707年から現在に至るまでのチズウィックハウスの変遷とハハー
図版引用元:John Harris著「Lord Burlington, His Villa and Garden at Chiswick」
Fig5.をみると最初は小さくしかも四角形を基本とする形でまとまっていたものが、徐々に外へ軸線が伸び出し、ついには川を挟んだ対岸にまで軸線の構成は続くようになる。現在に至るまでにフランス式庭園の構図は失われていないようにみえるが、イギリス風景式庭園の特徴であるハハーとよばれる空堀がつくられており、庭園外への関心が高まった結果として、このような空間改変が行われたのだと推察できる。
以下、私が撮影した写真をいくつか公開する(無断転載・転用禁止)
何かの参考になれば幸いです。
日本庭園
奈良時代庭園(奈良時代):平城京左京三条二坊宮跡庭園
浄土式庭園(平安時代):浄瑠璃寺庭園
寺院庭園(室町時代):常栄寺雪舟庭
書院造庭園(安土桃山〜江戸時代):二条城庭園
座鑑式庭園(安土桃山〜江戸時代):醍醐寺三宝院庭園
大名庭園(江戸時代):六義園
大名庭園(江戸時代):浜離宮庭園
大名庭園(江戸時代):兼六園
大名庭園(江戸時代):岡山・後楽園
大名庭園(江戸時代):小石川・後楽園
武家屋敷庭園(江戸時代):知覧武家屋敷庭園群
離宮庭園(江戸時代):桂離宮
離宮庭園(江戸時代):修学院庭園
露地庭園(江戸時代):居初氏庭園
折衷庭園(明治時代):旧古河庭園
別荘庭園(明治時代):無鄰菴
住宅庭園(昭和):重森三玲庭園美術館庭園
神社庭園(昭和):松尾大社庭園(曲水の庭・即興の庭・上古の庭・蓬莱の庭)
韓国庭園
王宮庭園:昌徳宮
中国庭園
ヴェトナム庭園
イタリア庭園
フランス庭園
イギリス庭園
もっと庭園を勉強したい人のために・・・
参考文献
<図書>
1)図説/景観の世界―人類による環境形成の軌跡 ジェフリ・ジェリエー、 山田 学 彰国社
2)都市史図集 都市史図集編集委員会 彰国社
3)Composing Landscapes: Analysis, Typology and Experiments for Design Clemens Steenbergen Birkhauser Basel
4)Architecture and Landscape: The Design Experiment of the Great European Gardens and Landscapes Clemens Steenbergen、 Wouter Reh Prestel Pub
5)イタリアのヴィラと庭園 ファン・デル・レー・パウル、 ステーンベルヘン・クレーメンス 鹿島出版会
6)ヨーロッパの庭園―歴史・空間・意匠 横山正 講談社
7)楽園のデザイン―イスラムの庭園文化 ジョン ブルックス、 神谷 武夫 鹿島出版会
8)中国造園史 佐藤 昌 日本公園緑地協会
9)イスラーム建築の見かた―聖なる意匠の歴史 深見 奈緒子 東京堂出版
10) 岩波日本庭園辞典 小野 健吉 岩波書店
11) 植治の庭―小川治兵衛の世界 尼崎 博正 淡交社
12) 鎌倉の庭園—鎌倉・横浜の名園をめぐる 宮元 健次 神奈川新聞社
13) 京都 水ものがたり—平安京一二〇〇年を歩く 平野 圭祐 淡交社
14) 原色 庭石大事典: 産地、原石の種類、造園での使用例などがひと目でわかる! 庭石大事典制作委員会 誠文堂新光社
15) 建築学用語辞典第2版 日本建築学会編 岩波書店/建築大辞典第2版 彰国社
16) 建築と庭—西沢文隆「実測図」集 西沢 文隆 建築資料研究社
17) サライの「日本の庭」完全ガイド サライ編集部 小学館
18) 図解 庭師が読みとく作庭記・山水并野形図 小埜 雅章 学芸出版社
19) 図説 日本建築の歴史 玉井 哲雄 河出書房新社
20) 図説 日本庭園のみかた 宮元 健次 学芸出版社
21) 総覧 日本の建築 (1)~(9) 日本建築学会編
22) 大名庭園—江戸の饗宴 (講談社選書メチエ) 白幡 洋三郎 講談社
23) 探訪日本の庭 12巻 小学館/庭園史をあるく—日本・ヨーロッパ編 加藤 允彦 昭和堂
24) 日本古代の庭園と景観 本中 真 吉川弘文館
25) 日本庭園鑑賞のポイント55 (コツがわかる本!) 宮元 健次 メイツ出版
26) 日本庭園—空間の美の歴史 (岩波新書) 小野 健吉 岩波書店
27) 日本庭園史大系 35巻 重森三玲 社会思想社
28) 日本庭園の植栽史 飛田 範夫 京都大学学術出版会
29) 「日本庭園」の見方—歴史がわかる、腑に落ちる (ポケットサライ) 田中 昭三 小学館
30) 日本庭園の歴史と文化 小野 健吉 吉川弘文館
31) 日本の建築 歴史と伝統 太田博太郎 ちくま学芸文庫
32) 日本の10大庭園 重森千靑 祥伝社/日本の庭園 (1)~(6) 講談社
33) 日本の庭園 - 造景の技術とこころ 進士 五十八 中央公論新社
34) 日本の庭園文化 西 桂 学芸出版社
35) 庭師が教える 図解 日本庭園の見方・楽しみ方 宇田川辰彦 家の光協会
36) 見たい、知りたい!日本の庭園: 写真と図解でわかる!「名園」の見方・楽しみ方 ライフサイエンス 三笠書房
37) 夢窓疎石—日本庭園を極めた禅僧 (NHKブックス) 枡野 俊明 日本放送出版協会
38) よくわかる日本庭園の見方 (楽学ブックス—古寺巡礼) 田中 昭三 ジェイティビィパブリッシング
<論文>
1)イスラームの建築と庭園における水の向きと空間の方向性 小林 由佳 , 小泉 隆 , 鈴木 信宏 学術講演梗概集. F-1, 都市計画, 建築経済・住宅問題 1996, 23-24, 1996-07-30
2)フランス 庭園の旅 150の優雅と不思議 巖谷 國士 平凡社
3)フランスの庭 奇想のパラダイス 横田 克己、 松永 学 新潮社
4)英国庭園を読む: 庭をめぐる文学と文化史 安藤聡 彩流社
5)珠玉のイギリス庭園をいく: 60の緑の楽園ガイド 岩切 正介 原書房
6)英国式庭園―自然は直線を好まない 中尾 真理 講談社
7)「東アジアにおける理想郷と庭園に関する国際研究会」報告書 奈良文化財研究所 文化庁 2009
8)イタリアにおけるヴィッラ(田園住宅)の形成とその系譜に関する調査研究 住宅総合研究所研究助成報告書 (19) 199-208 1992年
9)イタリア庭園における景観デザインの意味 松久喜樹
10) 岡山後楽園の借景・操山の風致と施業/小野芳朗 日本建築学会計画系論文集 第76巻 第664号 1197-1204
11) 川越喜多院の客殿について 平井聖ほか 日本建築学会論文報告集 第103号 487
12) 都心における庭園の景観保全に関する研究 その1 縮景園の周辺景観の現状 篠部裕 ほか/日本建築学会中部支部研究報告集 第33巻 1-4
13) 平城宮東院庭園中央建物の復元 その1 その2 日本建築学会大会学術講演梗概集 189-192
14) 毛越寺の研究(観自在王院を含む) 藤島亥治郎 日本建築学会 建築雑誌 59巻 62-63